在庫管理の基本中の基本と言えば「先入れ先出し(FIFO:First In First Out)」ですが、製造業から販売業、小売業まで幅広い業界でこの先入れ先出しは基本でありながら非常に重要な在庫管理方法です。
少し古いデータになりますが2010年に東京都福祉保健局が行った食品従事者向け調査によると、従業員の全体のうち先入れ先出しをしっかりと認知しているのは70.3%に留まっています。
参考:東京都福祉保健局
一見多い数字のようにも見えますが、在庫管理の“基本中の基本”であることを考えれば最低でも90%以上はないと少ないと言えるでしょう。
今回の題材はこの在庫管理の先入れ先出しについてですが、なぜ先入れ先出しが実現できないのか?それによって起こる弊害?そして正しい先入れ先出しを行うポイント?の3つを解説していきます。
適切な在庫管理に悩んでいる管理者の方は是非参考にしてください。
在庫管理で先入れ先出しができていない原因
ルールをしっかりと設けているにも関わらず在庫管理で先入れ先出しができていない場合、以下の4つの原因が考えられます。
現場の作業員がルールを守っていない
ルールはあっても現場の作業員が守らなければ当然先入れ先出しが実現することはありません。
作業員がルールを守らない理由としては第一に「ルールをいまいち理解していない」、次に「ルールに強制力がなく自由に作業してしまっている」です。
実はルールをしっかりと設けているものの作業員が理解していないというのは非常に多く、先入れ先出しを難しくしてしまっています。
在庫管理に関する教育が足りないというのもありますが、ルールを明確に提示できていないという原因が最も多いでしょう。
2つの理由についてですが、管理者の目があまり届かない現場で起こりやすいケースです。特に正社員ではなくアルバイトを起用している企業に多く起こります。アルバイトに責任感のある人がいないとは言いませんが、やはり正社員と作業に対する姿勢に差が出るのは仕方がないことでしょう。
在庫品の“鮮度”が分かりづらい
先入れ先出しが「古い部品や原材料から先に使用していく」ということを理解はしているものの、それを実現するための工夫がされていないことが多くあります。つまり在庫品の種類に関わらず“鮮度”が分かりづらい状態ですね。
どれが新しい在庫品でどれが古い在庫品かが一目で分からなければ、先入れ先出しを実現するのは難しいでしょう。
「そのために入荷日やロットNo.を明確にしているけど、それでも先入れ先出しができない」という意見も多いと思います。しかしよく考えてもみれば、せわしなく作業をしている在庫管理現場でシール上に小さな文字で明記された入荷日やロットNo.をいちいち確認するのはなかなか骨の折れる作業です。
これでは明らかに業務が滞ってしまうので、結果先れ先出しが適切にされなくなります。
このケースでは管理者として現場を叱咤するのはむしろマイナス効果です。作業員がただルールを守っていないならまだしも、業務効率化が考えられていない現場では管理者に責任があると言えるでしょう。
在庫置き場の3Sが徹底されていない
3Sとは「整理」「整頓」「清掃」の頭文字をとったものですが、ビジネスパーソンであれば知らない人はいないでしょう。もともとは「清潔」「躾け(しつけ)」をプラスした5Sが基本なのですが、在庫置き場ではそこまで清潔さは重要ではないので3Sが基本となります。(もちろん取り扱う製品にもよります)
業界や業種を問わず意識・実行することが大切な3Sですが、在庫置き場で徹底できていないケースが多く、先入れ先出しを阻む原因にもなっています。3Sが徹底されていないが故に在庫置き場が煩雑化し、新しい在庫と古い在庫が混ざり先入れ先出しが難しいということです。
在庫数が多く頻繁な入れ替え作業が必要
在庫数が多い現場でも先入れ先出しは難しくなります。特に在庫品の回転が速い現場では次から次へと在庫品を運び出さなければならないため、先出し先入れを簡素化する仕組みが取れていないと実現は不可能でしょう。
この原因に関しても責任は現場の作業員ではなく管理者にあると言えます。
先入れ先出しができていないことで起こる弊害
品質不良を起こす
先入れ先出しのができていないことで起こる弊害は、スーパーの陳列棚に並んでいる牛乳で例えると分かりやすくなります。
まず新たに入荷した牛乳を先入れ先出しを無視して陳列した場合古い牛乳が後方に、そして新しい牛乳が前方に陳列されます。この状態のままお客様が牛乳を取っていけば必然的に古い牛乳が売れづらくなり、賞味期限切れとなって廃棄せざるを得なくなりますね。
これはスーパーといった食品販売業に限ったことではありません。例えば製造業において半導体部品を使っている場合、消費期限などはありませんが古い部品からどんどん組み付けしていかなかければ経年劣化を起こす恐れがあります。在庫置き場には少なからず湿気やホコリなどが舞っているので、時間をかけて劣化していってしまうのですね。
そして劣化した部品をそれと気付かないまま組み付けすれば、製品不良を起こす可能性がありリコールなど重大なトラブルに繋がりかねません。
先入れ先出しができていないことで起こる品質不良は、そんな業界にも該当するトラブルの一つなのです。
正確な在庫数の把握が困難になる
先入れ先出しが適切にできていいれば棚卸の際など在庫数を把握することが比較的簡単になります。特に小規模Eコマースなどでは在庫管理システムを導入しているケースが少ないので、なおさら先入れ先出しの影響が大きいでしょう。
正確な在庫数を把握できていないと決済に影響が出るだけでなく、前述したように品質不良を起こす可能性が高くなります。
基本中の基本だけにやはり在庫管理の先入れ先出しは非常に重要ですね。
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正しい先入れ先出しを行うポイント
それでは具体的にどのようにすれば先入れ先出しを適切に行うことができるのでしょうか?
現場の見えやすい位置に作業指示書を掲示する
作業員が先入れ先出しのルールをいまいち理解していない場合、常にルールを確認できるようにする必要があります。特にアルバイトを起用している企業ですと教育にあまり時間をかけてないことが多いので、ルールを理解しないまま作業しているケースが多いのです。
そこで作業指示書を作成して現場の見えやすい位置に掲示しておきましょう。注意して欲しいのは冊子タイプの指示書を作成して置いておくのではなく、あくまで“瞬時に確認できるように掲示しておくこと”です。
例えば指示を全てA3用紙にまとめてラミカードを作り、現場の見えやすい位置に掲示しておきます。これなら作業員も忙しい合間に確認することができるのでルールを理解させつつ業務効率化にもつながります。
管理者が定期的に現場視察を行う
現場に強制力がなくルールが徹底されていない場合は、やはり管理者により強制力を生む必要があります。「忙しいから」と理由を付けず定期的に現場に足を運びましょう。
作業員に「管理者がいつ来るかわからない」という意識を植えれば強制力は自然と生まれます。1日たった数回・数分の現場視察で先入れ先出しが徹底できるのであれば、デスクにかじりついているよりよほど生産的と言えるでしょう。
在庫品の“鮮度”を分かりやすくする工夫を施す
入荷日やロットNo.を明記した管理シールでは確認に時間がかかるため、あまり得策ではありません。もりちろん在庫管理上必要なものなので管理シールを廃止する必要はありませんが、以下の管理方法を実践してみてください。
カラーシール管理
最も簡単かつてコストでできる管理方法であり、在庫品の鮮度をカラーシールで明確にしていきます。例えば1日に複数の在庫品が入る場合は入荷時間に応じてシールの色を使い分けましょう。
9:00入荷:イエロー
11:00入荷:グリーン
13:00入荷:ブルー
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といった具合に入荷時間ごとに在庫品にシールを貼っていき色分けすれば簡単に鮮度を見分けることができるため、先入れ先出しを行う助けになります。日次入荷なら日に応じてカラーシールを貼るなどすれば、意外と多くのシーンに対応できるでしょう。
ロケーション管理
ロケーション管理とは単純に「新しい在庫品はここ、古い在庫品はここ」といった具合に、置き場を変えることで在庫品の鮮度を把握できるようにします。このとき、床にテープを貼るなどしてエリアをしっかりと区分けすれば混乱することもないでしょう。
ただし在庫品があまりに多いと難しい管理方法なので、状況に合わせて活用してください。
日次あるいは週次で3Sを行う
3Sを徹底して先入れ先出しをやりやすくするためには、日次あるいは週次で3Sを行わせるのが効果的です。定期的に3Sを実行させれば自然と習慣化するのでちょっとした作業時でも3Sを意識して作業するようになります。
入れ替えを少なくする工夫を施す
在庫品が多く入れ替えが激しい現場では、一度の入れ替えでできるだけ多くの在庫品を運び出せる工夫をしましょう。例えば台車を活用するだけでも一度の多くの在庫品を運び出すことができるので、作業員の負担も減り適切な先入れ先出しを行えるようになります。
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まとめ
簡単なようで意外と難しい先入れ先出し。「適切にできていない」という企業では、先入れ先出しを徹底できる環境を作ることが在庫管理のムダをなくし、製品トラブルなどを防止します。まずはなぜ先入れ先出しができていないのかの原因を究明し、適切な対処を取ることで実現しましょう。
皆さんの在庫管理現場では、先入れ先出しできていますか?
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