国際的な会計の基準である「IFRS」を取り入れる企業が日本でも徐々に増えています。会社経営に関わっていたり、経理や会計を担当している場合はぜひとも国際会計に関する知識を身に付けておく必要があります。今回はIFRSの概要と、自社の会計をIFRS方式で行うメリットとデメリットを解説していきます。
国際会計基準(IFRS)とは?
世界共通で利用できる会計基準として、IFRS(国際財務報告基準、International Financial Reporting Standards)というものが存在しています。これは英ロンドンに拠点を置く独立民間非営利の基準設定機関、国際会計基準審議会(International Accounting Standards Board)が定めているグローバルな会計基準で、2005年ごろから世界的に広まり始め、現在は100ヵ国以上の国で上場企業に対して強制適用されています。
しかし、日本ではIFRSの普及が大幅に遅れています。2015年に日本でも強制適用が始まる予定でしたが、東日本大震災などの要因によって実現には至らず、現在も任意適用になっています。それでも、事業のグローバル展開を見越して、自社の会計にIFRSを取り入れる企業は年々増加しており、今後もさらに増えていくと見られています。
国際会計基準(IFRS)の特徴
IFRSは日本の会計基準(JGAAP)と大きく異なる特徴がいくつかあります。
貸借対照表の重視
投資家や債権者などのステークホルダーが資産価値を評価するための情報として「貸借対照表」を主に用います。
原則主義
具体的な規則ではなく、基準となる原理原則を定め、細かな規定や運用はそれぞれの判断に任せるという「原則主義」を採っています。詳細な規定や基準を設けてしまうと、各国の法律や慣習に矛盾してしまい運用できなくなる可能性があるからです。必然的に、解釈の自由度は高くなりますので、どのような判断を行ったのかを明らかにする「注記」が都度、必要になります。これに対して、日本の基準は「細則主義」に基づいており、具体的な数値基準や規則などがあらかじめ詳細に規定されています。
グローバル基準の採用
基準の定義や議論は全て英語で記述して、言語の違いによる解釈のズレを防ぎます。
日本の会計基準との違い
では、IFRSと日本の会計基準との違いはどういった点にあるのでしょうか。
「貸借対照表」、つまり「純資産」を重視するIFRSに対し、日本の会計基準では「損益計算」つまり「純利益」を重視しています。これが2つの会計基準で最も異なる点であり、日本国内でIFRSが浸透しづらい原因の一つとなっています。
また、日本の会計基準にある「経常損益」や「特別損益」という概念がIFRSには存在しないということも大きな違いです。「営業利益」に「営業外損益」を加算して算出される「経常利益」は、日本では企業の収益力を表す指標として使われていますが、IFRSでは「営業外損益」は「その他営業収益」または「その他営業費用」として計上する決まりです。
また、日本の基準では本業の損益計算とは別に「特別損益」を計上することができますが、IFRSではこの考え方はなく、特別損失も営業費用に含めるため、特別損失の多寡が営業利益の額に大きく影響を与えることになります。
IFRS導入のメリット
IFRSを導入することで具体的にどのようなメリットがあるのか見ていきましょう。
資金調達の多様化
日本の会計基準で会計を行っている場合、海外の企業や投資家と取り引きする際には取引先の国や地域の基準に合わせた財務諸表及び説明資料を作成しなおす必要があります。
しかし、始めからIFRSを採用していれば、決算で作成した財務諸表をそのまま利用することができるため、海外の投資家にとっては投資のハードルが下がることになります。これによって、企業側はより多くの投資家から資金調達できる可能性が生まれるというメリットがあります。
企業全体で統一された会計基準に
日本だけなく海外に子会社を持つ企業があります。このような企業の場合、海外の子会社と同一の会計基準を使うことができます。その結果、各会社間の財務情報を比較しやすくなり、正確な業績評価が可能となるのです。
M&Aにおけるのれん代
企業がM&Aを行う際には、支払う金額と買収先の純資産額の差額、つまり「のれん代」を資産として計上します。日本の基準ではのれん代は時間の経過によって目減りするものと考えられており、計上したのれん代は20年以内に毎期償却しなければならないというルールがあります。一方、IFRSでは、のれん代を均等償却する必要がないので会計上の利益が減りにくいということになります。実際に、ソフトバンクや武田薬品工業など海外企業のM&Aを行っている日本の企業はIFRSへの移行を行っています。
[RELATED_POSTS]IFRS導入のデメリット
一方で、IFRS導入のデメリットもあります。
適応するのに時間と労力が必要
IFRSは日本の会計基準によるやり方と異なる点が多いため、新たな方法になじむのに相応の時間と労力が必要となります。コンサルタントやアドバイザーを依頼したり、会計システムをIFRS対応のものに切り替えたり、社内の運用者となる従業員の教育や研修などが必要になるなどして膨大な費用がかかることが予想されます。
範囲拡大による負担増
日本の基準では資産や負債にあたらなかったものが、新たに計上され範囲が拡大するため、それらの処置や対応が必要になります。つまり、増えた資産や負債に対応するためのコストが追加で発生するということになります。
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IFRSを導入する際の注意点
最後に、日本の企業が実際にIFRSを導入する際に気をつけるべき点を紹介します。
綿密な計画が必要
IFRSを実際に導入するには、コスト、人員、教育、時間など様々な問題や課題が存在します。
例えば、売上計上基準を考えても、IFRSは出荷基準ではなく検収基準となるため、経理・会計部門はもちろん、その他の関係する部門への影響も大きくなります。このため、導入や切り替えを行う際には、綿密な移行計画を立てることが重要です。IFRSメリットとデメリットを理解して総合的な見地から判断し、綿密な計画を立てて導入を実現させましょう。
2期分の財務諸表作成が必要
導入する初年度には、過去2期分の財務諸表にさかのぼってIFRS対応の財務諸表を開示することが規則で定められています。これは単年度のみのIFRS対応では、当該年度の業績と過去の業績の比較を全く行うことができず、ステークホルダーが経営状態を判断する情報として成立しないためです。
まとめ
グローバル化が進む中、日本も国際基準の会計方式への全面的な移行がほぼ確実な情勢です。現在のところは任意適用にとどまっていますが、上場企業に対してはそう遠くないうちにIFRSの強制適用が実施されるとみられています。事業のグローバル展開に向けて、企業会計における世界基準であるIFRSについて、ぜひとも理解を深めておきましょう。
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- 経理/財務会計